指導者用 [指導者用冊子各ページには児童生徒用の中身を縮小して掲載し、そのページに関する解説を記載しています。また解説ページの余白部分を利用しトピック記事としていろいろな情報を載せています。トピック記事は解説と区別するためにグレーの枠線で囲んでいます。このテキスト版では児童生徒用冊子の中身のイラストの説明は省き本文のみを掲載しました。] 表紙 「障害」ってなんだろう・「障害」はどこにあるんだろう 体にある障害と社会にある障害 あなたの気づきと行動でだれもがともに暮らせる社会づくりを目指して! 表紙の本文:はじめに 最近、福祉教育が、小学校や中学校で盛んに行われるようになり、障害当事者が、直接児童・生徒に障害者の生活や誘導法などについて話をする機会が多くなってきました。 当法人の障害当事者が進める福祉講座は、障害者個人の機能障害に焦点をあてる「障害の個人モデル(医学モデルともいう)」に基づくのではなく、障害を差別や人権・平等の視点と見る「障害の社会モデル」を基礎に進めています。 言い換えれば、障害者の機能的な制限を知り、車椅子の段差越えや視覚障害者の介助など、どのように「介助」し、接するかという行為を学ぶことを目的とはしません。障害が環境が変わることにより軽減または解消できることを知り、「なぜ」そのような障害が作られまたは、解消されるのかの原因と構造を理解することで、受講する児童・生徒などが、自らの言動を振り返ることができ、身近な家族・クラス・地域社会の中で具体的な行動ができるようになることを目標としています。 今後当法人が進める福祉講座を充実させていくため、皆様のご支援・ご指導を頂ければと願っているところです。このような思いをご理解の上、本解説書をお読みいただければ幸いです。 p2 私は直子!「見えない」という体の障害があります この冊子では、直子さんの生活を通して「障害」が作られる原因にに気づき、どうすれば「障害」をなくしていけるのかをみなさんと考えていきます。 私は直子。33さい、夫と5さいの女の子の3人家族。仕事は事務です。子どもを保育園にあずけて共働きで暮らしています。 小さいときは普通に見えていましたが、中学生くらいから少しずつ見えにくくなり、結婚したときにはほとんど見えなくなりました。 解説(児童・生徒用冊子2頁 ) まず、冒頭でこの冊子の「ねらい」を提示しています。これを読んだときに、「障害の原因は病気や事故なのにそれ以上何を考えるの?」 「障害をなくすって、事故予防とか病気を治す方法を専門家でもないのに考えるの?」と、感じる方が多いのではないかと思います。 冊子を読み進めてもらうと理解できる仕組みになっていますが、まずいきなりこのような提示があることで「障害は体が不自由なことだ」と理解している児童・生徒に「障害っていったら体が不自由なことなのに、何を言いたいんだろう」と疑問を持ってもらうことがねらいです。 そして、次にこの冊子のメインキャラクター・直子に自己紹介をさせています。児童・生徒の多くは、視覚障害者は ○何もわからなくて何もできないから、着替えや食事も含め常に誰かに世話をしてもらっている ○自分たちとは全く別の暮らしをしている ○生まれたときから全く見えない などと想像していることが多いと、今までの講師経験から推測されます。 ですので、仕事を持ち、結婚して夫と共に家事と子育てをしているという、ごく一般的な自立した女性であり、大人になってから見えなくなった直子をメインキャラクターにしました。 この直子の設定は、この冊子のためにつくりあげたものではありません。この直子の姿はごく一般的で多くの視覚障害者の姿そのものです。 直子に自己紹介をさせることで、まずは上にあげたような視覚障害者に対する異質感を取り除くことがねらいです。 p3 見えない人はこのようなものを手がかりにしています 直接さわれるものは手や足、白杖などで確認します。 音やことば、においなどからも周りの様子が伝わります。 解説(児童・生徒用冊子3頁 ) 人が行動する際は、環境や状態を把握するための各種の情報を入手する必要があります。その情報が入手できなければ、判断能力があっても判断ができなくなりますので「わからない・できない」という状態になります。これが「困る」という状況です。 視覚は他の感覚とは違い、周囲の環境を把握するために一度に膨大な情報入手が可能ですから、人が行動する際は最も重要な感覚となります。従って見えないと何も伝わらない・わからないという誤解を生みやすくなります。そのことから「見えないと困ることばかりで何もできない」という先入観に繋がると想像できます。 しかし、人は見ること以外から伝わる感覚を他にも4つ持っています。五感のうちの視覚以外の、触覚・聴覚・嗅覚・味覚です。この4つの感覚から周囲の情報が伝わることも多くあります。視覚以外から情報が入手できさえすれば判断できますので、困ることは極めて少なくなりますし、ほとんどのことができる(行動できる)ようになります。 実際の日常場面から、目からはいる情報が無くても、見ること以外の感覚で情報把握ができ、それと今までの経験や記憶の中の情報を組み合わせて判断できることを理解することがねらいで最初に触れています。 p4 直子の生活・屋内編 ここからは、私の生活を紹介するわね! 見えなくてもわかることがたくさんあるのよ。 さわれば形や材質でわかるるし、さらに置き場所を決めておけばすぐに取りだせます。 お湯のわき具合は音の変化でわかります。あげ物も油に入れたときとあがったときの音のちがいでわかります。 皮と身はちがう手ざわりなので、むき残すことはありません。 解説 (児童・生徒用冊子4頁 ) 日常の中には、見える人はなかなか気に留めていないごく普通に存在する「見ること以外でわかる情報」があります。 実生活に置いて「物の形や質感」を触覚を通して把握したり、「いろいろなものが発する音」を聞くなどの情報を利用することで、わかる(障害とはならない)事例です。 普段気にかけていない見ること以外の情報があることに気づき、視覚障害者が自分との個性の違いがあることを理解し、他者の人格を尊重できるようになることがねらいです。 トピック記事【社会モデルの講座を受講した小学生の感想より@】 ・一番大切なことを知ることができました。それは一人ひとりが障害を作ることも無くすこともできるということです。障害を作る方でなく、無くしていく人になりたいです。 ・これからの自分はどうやって配慮していこうか、障害を無くしていこうかと考えさせられました。不自由な人だけでなくみんなにも障害はいけないと思うので配慮していきたいと思います。 p5 直子の生活屋内編 見えなくても伝わるしくみや配慮があれば私にも知りたいことがわかるわ。 画面の文字を読み上げるソフトを入れて、キーボードで操作します。 このスマホはさわると音がでて操作できるようになっています。 定規のめもりがうき出てるので、さわってわかります。 解説(児童・生徒用冊子5頁 ) 製品仕様がユニバーサルデザインになっていたりバリアフリーの仕組みがあることで困らない(障害がない)事例です。 「見えるのが当り前」の仕様で作られてしまっていない、見ることだけでなく聞くことや触ることでも伝わる仕組みが同時にあることで障害が起こらないことを理解することがねらいです。 トピック記事【タッチパネル】 近年、スマートフォンに代表されるような、物理的なボタンがなく、「見て、その場所をタッチして操作する方式」の 端末が増えてきています。極めて「見えるのが当り前」の発想で作られた端末です。 しかし、このような端末にも「画面に出た文字(情報)を音声読み上げをする仕組み」を加え、「タッチジェスチャーに音声読み上げの機能と実行の機能の違いを付加すること」で、「見えなくても操作できる端末になります。実際にこのような仕組みが最初から付加されているスマートフォンが市販されています。 《タッチジェスチャーの例》 一度タップすると音声読み上げ。連続2回のタップで実行。 p6 直子の生活・屋内編 「見えるのがあたりまえ」で作られたものは私には使えないから、自分なりの工夫でなんとかしているものもけっこうあるの。 片方のビンに輪ゴムを巻いて中身を区別しています。 何のカードかがわかるように点字シールをはっています。 色を区別するために玉どめの数でわかるようにしています。 おさつは種類で区別して入れています。 解説(児童・生徒用冊子6頁 ) 本来、これらの製品も「見ないでわかる仕組み」が前ページの製品のように最初から付けられていることが望ましいのですが、まだまだ多くの製品が「見える人だけがわかる仕組み」になっています。 ですので見えない人には情報が伝わらないという障害が作り出されていますが、それを無くす方法として、自分で触ってわかる手がかりを付けてそれを覚えておくことで障害を無くしている事例です。 まだまだ見えるのが当り前で作られてしまい、見えない人に配慮がない製品が多くあること、そして障害がある状態で放置しておくことはQOLの低下になりますのでどうにか自分なりの工夫で障害をなくす工夫をしている状況があることを理解することがねらいです。また、障害を無くすためにはほんの少しの工夫でなくなることも理解してほしいとのねらいもあります。 トピック記事【整理整頓】 P4のシーン1でも少し触れていますが、物はいつも同じ場所にきちんと収納しておくことも障害をなくす秘訣です。 でも、ここで少し考えてみてください。整理整頓されていたら見える皆さんも、すぐに物が取り出せるのではないでしょうか。見えていなくても見えていても整理整頓は必要ですね。 (P4のシーン1、フライパンとフライ返しを持った直子さんのイラスト) p7 直子の生活屋内編 こんなことは工夫も無理!!いろいろな人が製品やサービスを使うことを作り手が意識してくれたら障害は作りだされないのではないでしょうか。 読み上げソフトなどに対応した「作り方のルール」を守っていないホームページは、音声で読み上げられません。 (タッチパネルの操作盤)見える人しか操作できません。さわると音がでて操作できるしくみがあれば使えます。 (活字印刷の本)見える人しか読めません。テキストデータなどの提供があれば読めます。 解説(児童・生徒用冊子7頁 ) こちらは自分なりの工夫でも障害を無くせない事例です。 これらの障害を無くすには、例えば「ウェブアクセシビリティ」などのルールを守ってホームページなどを制作することが必要ですが、これらのルールが守られていない場合には、見える人に見てもらい、見たことを言葉で伝えてもらう、または、操作を代行してもらうことでしか解決できません。 制作者に配慮がないために、単に「見えない」というだけで他人に依頼をせざるを得ない状況が生じています。正に障害が作り出されています。 製品やサービスの作り手の意識で障害が作り出されたり無くなったりすることを理解することがねらいです。 トピック記事【「ウェブアクセシビリティ」とは】 「高齢者や障害者など心身の機能に制約のある人でも、年齢的・身体的条件に関わらず、ウェブで提供されている情報にアクセスし利用できること」を意味します。 参考:ウェブアクセシビリティとは: @みんなのウェブ http://barrierfree.nict.go.jp/accessibility/whatsacs/index.html A総務省|情報バリアフリー環境の整備|情報アクセシビリティの確保http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/b_free/b_free02.html (ここに上の@AそれぞれのQRコードも掲載されている) p8 直子の生活・屋外編 街でも、見えなくても伝わるしくみや配慮があれば私にもわかるわ。 (エスカレーターの乗り口、トイレ入り口の音声案内)音声でも案内されているからわかります。 (エレベーター)操作ボタンにさわってわかる配慮があり、階数の音声案内もあるから安心して使えます。 解説(児童・生徒用冊子8頁 ) ユニバーサルデザインの仕組みがあることで外出した際も障害が無くなることの事例です。見ることだけでなく聞くことや触ることでも伝わる仕組みが同時にあることで障害が起こらないことを理解することがねらいです。 直子さんの笑顔のイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:見える人は表示板などで配慮されているから移動に障害がない 本文:皆さんははじめての場所に行くときなど、どのようにして目的地に到着していますか? 見える人には「案内表示板」という視覚情報が存在しているので、自分の行き先がどちらなのかの情報が得られます。地図を見てその地図に書かれている建物などがあることはその建物の看板(視覚情報)で情報を得ることができますので、自分の行く方向を確認して進むことができます。 このように見える人だけに配慮した情報提供がほとんどなので見えない人は困ってしまいます。 トピック記事【視覚障害者の移動(歩行)】 視覚障害者が外出・歩行をするには、大きく分けて次の方法があります。 @白杖を使った単独歩行 A盲導犬を使用しての歩行 B人的支援での歩行         ○ 白杖の役割 ・歩行面(路面)の情報収集(環境把握) ・障害物からの防御(危険を事前に知る) ・存在を周囲に知らせる目的(合理的配慮の提供を促す)  ○盲導犬については、P23参照 ○ 人的支援 ・公的制度を利用したガイドヘルパーによる支援 ・制度以外の人的支援(家族・ボランティア・一般市民の支援)    p9 直子の生活・屋外編 人の声かけやサポートも、障害をなくす大切な配慮のひとつね。 店員さんが買い物の手伝いをしてくれるスーパーが増えてきました。 危険を声で知らせてくれる人や迷っていたら声をかけてくれる人がずいぶん増えてきました。 解説(児童・生徒用冊子9頁 ) 人的配慮により障害が無くなる事例です。 従来型の小売店は、誰もが店員さんと会話をしながら買い物をしました。店員さんからの言葉で情報をたくさん受け取れたので障害はとても少なく、買い物ができていました。しかし、現在主流のスーパーマーケット方式は、「見えるのが当り前」の仕組みの小売店です。つまり障害が作り出されてしまったのです。しかし店側でこの障害を無くす仕組みを整えるところが多くなってきました。 次の事例は「仕組み」としてではありませんが、周囲の人の「ちょっとした配慮(思いやりの心)」で視覚情報の不足から生じる危険・困ること(障害)が無くなる事例です。 自分の家などの屋内とは違い記憶情報に頼ることが困難な屋外では、視覚情報に変わる音声などの情報や配慮を見える人から視覚障害者に提供することで、障害や危険を激減させられることを知ることがねらいです。 直子さんの笑顔のイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:見えない人を誘導するとき 本文:肘あるいは肩を白杖を持っていない方の手で持ってもらってください。 肘か肩かは見えない人とあなたの身長差で歩きやすい高さの方を持ってもらいます。 p10 直子の生活・屋外編 街でも自分勝手な行動をする人によって障害が作りだされてしまうの。 (歩きスマホの人がぶつかってくる)ぶつかって歩く方向が変わってしまうと目的地にうまく着けなくなってしまいます。 (点字ブロック上の自転車)安心して歩けるはずのところが危険な場所になってしまいます。 解説(児童・生徒用冊子10頁 ) 「他の人のことは考えない行動」により人為的に障害が作り出されている事例です。 自分には使える・楽しい・楽だからと、多様な人が共に暮らしているという意識がないこと、他の人に対する配慮がない行動で、障害が人為的に作り出されていることを理解することがねらいです。 直子さんの困った顔のイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:こんなことはしないで!! 本文:気持ちはありがたいのですが、自分の思い込みでされてしまうと、かえって困る(障害になる)ことがあります。 ○白杖を持って引っ張らないでください。 →白杖は情報収集手段です。そこからの情報が絶たれてしまいますので「不安」な気持ちになります。 ○後ろからどんどん押さないでください。 →前方の様子がよくわからないところに押し出されてしまうことになりますので「怖い」気持ちになります。 ○黙って横や後ろからついて来ないでください。 →見えなくてもついて来られていることはわかるものです。黙ってついて来られるのは「嫌」な気持ちです。気にしてくれているならばきちんと声をかけてください。 http://view-net.org/archives/5693 (ここにQRコードも掲載されている) p11 直子の生活・屋外編 体にある障害に合わせた支援技術の開発でもっと快適に暮らせるようになるわ。こんな研究をしてくれる人が増えてほしいなー! 音声認識と音声合成を利用したスマホの機能 写した画像を解析して文字を読み上げる機能 GPSを利用した歩行ナビのアプリ 解説(児童・生徒用冊子11頁 ) 社会の仕組みを変えることはなかなかすぐにはできないものです。忍耐強く 10年 20年と歳月をかけて働きかけていって、めざしていたことがようやく実現するかも知れないくらいなことです。ですが、道具を作れば、その道具ができたときに「できるようになる」のです。そしてそれは時には社会の仕組みを変えていくツールにもなり得るのです。 例えばパソコンの音声読み上げソフトが完成したときに、画面上に映し出された文字が読めないという障害が無くなりました。これを利用して、今まで障害になっていた印刷物はEメールで送ることにより見えない人にも障害なく文書を送ることができるようになりました。視覚障害者の最大のネックであった普通文字の読み書きの障害がなくなり、社会参加の幅を革命的に広げることに結びついています。 見えなくてもできるようにするための方法として、個人の工夫、社会環境を変えること、支援技術の開発などがありますが、一つだけを取り上げて正しいとは言えません。これらすべてが大切です。できるようになるもう一つの方法として「支援技術」があることを知ることがねらいです。 トピック記事【社会モデルの講座を受講した小学生の感想よりA】 ・私は今日の話を聞いて、私たちが大人になったときに「配慮・仲間はずれを作らない・みんなちがってみんないい」など、障害者が安心して生活するためのプロジェクトなどをやっていきたいです。また何年後かには障害者を障害者と言わせないような未来を作っていきたいです。 ・今の時代は技術が発達し、ユニバーサルデザインのものが多くなっている中で 「見えて当然」という社会になっていることを知りました。障害は作ることも無くすことも自分でできるので、見つけたら無くせるようにしたいです。 p12 直子の見えにくくなってきたとき・少しだけ見えていたとき 少し見えにくくなってきた中学・高校時代を紹介するわ。 中学生のころに見えにくくなりはじめ、いろいろと誤解されました。そんなことがたびたびあり、やはり見えにくいことを友達に知ってほしいと思うようになりました。 高校生のころは文字も見えにくくなり、このようにして教科書を読んでいました。 解説(児童・生徒用冊子12頁 ) 直子は今は全盲ですが、中・高時代は「見えにくい状態(弱視)」ですごしていた頃のエピソードです。ここでは、弱視者にとっての「障害」について考えています。 「見えにくいこと」は「全く見えない」よりも周囲の理解を得るのはなかなか難しい状態です。これには見えにくい人本人が、見えにくさを隠そうとするがために周囲にはっきりと自分の状況を伝えることをためらっている人が多いことも原因の一つだと思われます。 日本社会において、「体の障害」は古来から負(ふ)の価値付けがされてきた背景があり、まだまだ障害がある人もない人も「体の障害があっても良し」とする考え方をすることができないことから起こる悪循環によるものと思われます。 体の障害も人の多様性(一人ひとりの違いの一つ)であって取り立てて「負(ふ)の価値(悪いこと)」という意識が人々の心から消えない限り、本人も隠せる限り隠し続け、周囲も理解するところに至らないのだと思います。 もし、体の障害を肯定的に受け入れ、ありのままの自分を受け入れてくれる人がひとりでも身近にいたら、ひた隠しにすることの苦しさから解放されるのだと思います。そしてありのままの自分を自分で受け入れることができたときに、自分で周囲に説明ができるようになり「周囲の理解が得られない」という障害も徐々に無くなり、自分らしく生きられるようになるのだと思います。 人の心のあり方(意識)が弱視者にとっても大きな障害になることを理解することがねらいです。 そして、これと同じことは他にもたくさんあることに気づくと弱視者の思いが自分の身近な問題として考えられるようになるはずです。 p13 働きだしたころはもっと見えにくくなって、こんなふうだったわ。 コントラストがはっきりした大きく見やすい表示が目の高さにあるところは助かりました。 見やすいものばかりではないので、単眼鏡やライトを使いました。 人ごみではぶつかりそうなので、まだ少し見えていたときも白杖をもって歩いていました。 解説(児童・生徒用冊子13頁 ) 弱視の人の現有視力で「見えにくいこと」を少なくするための道具の事例です。また周囲の注意喚起を目的として弱視者が白杖を持つことを認識してもらう必要があり、事例として紹介しています。 道路交通法第 14条(盲人及び児童等の保護)には 『目が見えない者(目が見えない者に準ずる者を含む。以下同じ。)は、道路を通行するときは、政令で定めるつえを携え、又は政令で定める盲導犬を連れていなければならない。』とあります。白杖を持つことで法的配慮の対象にもなります。弱視の状況を知ることがねらいです。 ※視覚障害というと「全盲」を想像されがちですが、全盲は視覚障害者のうちのごく一部と思っていていいくらいです。 トピック記事【視覚障害の分類】 視覚障害者の中には全く見えない人もいますが、視力が弱い、周囲が見えない、真ん中が見えない、大きな文字なら読める、明るいとまぶしい、白く濁ったように見えるなど様々な見え方の人がいます。 見えない人・見えにくい人たちを大きく二つに分けると、一つは全盲で、もう一つは弱視(ロービジョン)と言います。 全盲とはほとんど見えない人を指し、全く見えない人から視力0.01までの人を言います。 全盲以外の視力の弱い人を「弱視」または「ロービジョン」と言います。この人達は視力でいえば0.02から0.3までの人を言います。  p14,15 体にある障害と社会にある障害 ここまでは直子さんの視点で見てきました。今まで見てきた生活の中で直子さんにはいつも「障害」があったでしょうか。もしかして体に障害がある人に「障害」が作りだされるのは「社会にいろいろ なちがいのある人への配慮がないこと」が原因なのかもしれません。 見えないという体の障害はその人の力で乗りこえなければならないのでしょうか。 近くの人が声で知らせたり音響信号機にしたりすれば、何の障害もありません。 足が不自由な人では? 車いす利用者は足が動かせないという体の障害があるので、自分で努力して階段をあがらなければならないのでしょうか。 車いす利用者も使えるスロープやエレベーターがあれば何の障害もありません。 「社会にいろいろなちがいのある人への配慮がないこと」が原因で障害が作りだされているようです。 解説(児童・生徒用冊子14、15頁 ) 障害の個人モデルと社会モデルについて、解説します。(障害の個人モデルと社会モデルの文字のみ太字で大きく強調されている) 「目が見えないから信号機の合図がわからない」「歩けなくて車いすだから二階にあるレストランには行かれない」と、障害者が困難に直面する原因は、「その人の体に障害があること」と考えられてきました。ですから、障害を克服するのはその個人(と家族)の責任だとしていました。これを「障害の個人モデル」と呼んでいます。世界中がこのような考え方で体の障害がある人を「障害者」として差別し隔離しつづけてきていたのです。 これに対して、「多様な人を受け入れない社会こそが『障害(障壁)』を作っていて、それを取り除くのは社会の責任だ」とする考え方で、障害を個人の属性ではなく、社会的障壁として捉えるのが、「障害の社会モデル」です。 障害の個人モデルでは、健常者に近づくことや独力で多くのことができるといった能力主義に価値を置いていました。 障害の社会モデルでは、個人に応じた合理的配慮が提供されることが当り前となる平等社会を追求することに価値を置きます。 社会における価値の見直しを促していることに注意してください。(この文の文字も太字で大きく強調されている) 今までの社会の構造は、いわゆる五体満足の人だけが便利に暮らせる仕組みで作られてきていました。もっと言うと、その中でも男性です。見えて、聞こえて、二本足で歩いて、ある程度力があって、日本語の文字が読み書きでき理解力がある男の人が便利なように社会が作られてきていました。このように、設定された基準との違いがあればあるほど、社会から排除されて不便・不自由の度合いが増し差別されてきたのです。 目の見えない人は見えないから不自由なのではなく、社会の中に見えないことへの配慮が少ないから不自由なこと(障害)が起こるのです。 社会には様々な人がいます。みんな違いがあってあたりまえです。 社会に存在する建物や製品が、多様な人の利用を想定した仕組みになっていたり、人の心が自分との心身の違いで蔑んだり差別したりすることなく、互いに配慮し合えるというように、『その違いがある人みんなが当り前に生きられる社会』になっていたら、その人の「体」がどんな状態でも差別や排除(障害)は起こらないのではないでしょうか。 『どんな環境整備と配慮があれば、社会から排除されて差別される人がいなくなるのか』と、障害を社会モデルで考えられるようになることがねらいです。 (個人モデルと社会モデルの考え方の対比の表) ○人 「障害の個人モデル」 →健常を正常とする 「障害の社会モデル」 →多様な個性を持つのが当たり前 ○障害の原因 「障害の個人モデル」 →個人 「障害の社会モデル」 →社会 ○目標 「障害の個人モデル」 →健常者に近づく 「障害の社会モデル」 →個人に応じた合理的配慮が提供されることが当たり前となる ○価値 「障害の個人モデル」 →「できる」ことを当たり前とする能力主義 「障害の社会モデル」 →多様性を尊重する平等社会 ○解決 「障害の個人モデル」 →健常者になること 「障害の社会モデル」 →社会が作り出している「障害」の除去 ○解決の過程 「障害の個人モデル」 →個人の機能障害の回復 「障害の社会モデル」 →法律・条令の整備による制度の構築と建設的対話による合理的配慮を実現させていくための具体的な取り組み p16,17 障害をなくす配慮のしくみ@バリアフリー では、社会が作りだしている障害をなくすための配慮のしくみを見ていきましょう。 今あるものに後から見直しや配慮を加え、体の障害に合わせて使えるようにしたものを「バリアフリー」といいます。あなたの心にあるバリア (障害 )も取りのぞいてくださいね ! 見えない人たちへのバリアフリーの例 鳥の声で知らせてくれるから初めて利用する駅でも階段の位置が分かります。 点字は見えない人たちのためのもっとも配慮された文字です。 見えにくい人たちへのバリアフリーの例 大活字本 大きな文字で書かれた本が少しずつ増えています。 拡大読書器 本の文字をカメラで写しとり、画面に大きく映しだします。 あて名ガイド はがきや封筒にのせて書けば、あて名がまっすぐに書けます。 太い線のノート 太さだけでなく線の色も自分が見えやすいものが選べます。 解説(児童・生徒用冊子16、17頁 ) ここからは仕組みごとに分類して障害がなくなる事例を紹介します。 バリアフリーとは、日常生活や社会生活において既に存在している物理的・心理的な障害や、情報に関わる障壁などを取り除いていくことをいいます。 視覚以外の例をあげると、数段の段差を入口に設けて作られた建物に、車いす利用の人も入れるように、後からスロープを設置することもバリアフリーと呼びます。 そして特定の体の障害を有する人だけに向けて、その人のQOLの向上に寄与する製品もバリアフリー製品です。例えば、視覚障害者だけが使う白杖です。 「バリアフリー」の心や製品や仕組みが障害を無くすことにつながることを知るのがねらいです。 直子さんの困った顔のイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:アイマスク体験はおすすめできません。 本文:目が見えている人にとっては自分が目をつぶってみたときのことを想像して、「見えなかったら何もわからないしできない」と感じることが多いのだと思います。 見えている人が目をつぶった状態は、見えない人とはまるで違います。 そこに多くの経験や学習から得ている「知恵」がないからです。 目以外の感覚を活用する経験がないのですから、目をつぶった瞬間に、聞くことや触ることなどから情報を得て判断していくことができるわけがありません。できなくて当り前です。まだ何も育っていない赤ちゃんと同じ状況になってしまっていると言っても過言ではありません。 多くの場合、この「経験や判断する術がないためにできない」ということが無視され「見えないからできない」と短絡的に結びつけられてしまう傾向にあります。 ですから、このような体験をしても「見えないと何で障害が起こるのか」といった「社会の仕組みのあり方」に気づくことは難しいのです。 かえってそれが誤解であるにもかかわらず誤解ということに気づかずに「目をつぶったときの恐怖と無力感のみが強烈に印象づけられ、見えない人たちへの差別意識がかえって助長されてしまう危険性が極めて高くなってしまうのです。 まだまだ多くの学校などで行われているアイマスク体験では、上で述べたような誤解に基づく体験学習がされてしまうことが多く、残念です。 トピック記事【個人モデルで実施する講座と社会モデルで実施する講座では、次のような講座後の感想の違いがあります】 小学生の感想 個人モデルで実施していたとき ・アイマスク体験では暗くて怖くて何もできなかったです。 ・目が見えないとこんなに怖くてたいへんなんだとわかりました。だから、もし自分が見えなくなったら死にたいと思います。 ・目が不自由な人に会ったらやさしく助けてあげたいと思います。 社会モデルで実施したとき ・今日のお話で目が不自由になっても普通に暮らせるのがわかって安心しました。もし僕が目が見えなくなっても大丈夫なんだなと思いました。 ・体が不自由な人だけでなく、低学年・高学年の人やみんなにも障害になることを作ってはいけないと思うので、作らないように配慮していきたいと思います。 p18,19 障害をなくす配慮のしくみAユニバーサルデザイン 初めからより多くの人が使えるように配慮した製品やサービスを「ユニバーサルデザイン」といいます。これからどんどん増えていくと思います。 ユニバーサルデザインの例 (ホームドア)目の見えない人だけでなく、どんな人も安全に安心して利用できます。 段差が見やすい階段は安心です。 エレベーターでは、体調がすぐれない人や大きな荷物をもっている人など、だれもが便利に使えます。 音声案内だけでなく、色の見分けがつきにくい人たちへの配慮もあり、内容を表すマークもあれば外国人や子どもにも伝わります。 解説 (児童・生徒用冊子18、19頁 ) 最初からより多くの人たちが使えるような仕組みがある製品です。 その中には、初めは障害者のバリアフリーとして作られたものが、健常者にも使いやすい・快適なものなので、そのデザインが社会に定着したものが多くあります。ここにあげた事例の他にもまだまだあります。 例えば、温水洗浄便座です。手が不自由な人がトイレで困らないようにと作られたものですが、今では誰もが便利に使っています。 パソコンのキーボードは、視覚障害者が文字を書くのに考案されたタイプライターが応用されています。 レバー式のドアノブや水道コックは、手の力が弱い人も容易に操作できる仕組みとして考えられましたが、今ではみんなが楽に操作できますからこれが当り前になってきています。 「ユニバーサルデザイン」の心、製品・仕組みが障害を無くすことに繋がることを知るのがねらいです。 直子さんの笑顔のイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:バリアフリーとユニバーサルデザインの違いは? 本文:実は前ページのバリアフリーとユニバーサルデザインの違いははっきり線引きできるものではありません。 バリアフリーの最初の事例(P16)に出ているソースの点字表示を例に挙げて説明します。見える人に伝わる「文字」でソースと書かれて、見えない人に伝わる「点字」でソースと書かれています。 一つの方法だけでなく複数の情報発信の仕組みがあるという、多様な人への情報発信の仕組みが最初から考えられて作られたパッケージですから、ユニバーサルデザインと呼ぶこともできます。また、点字表示を取り上げたときに「見えない」という特定の身体状況の人に配慮した仕組みが付加されていることであり、バリアフリーとも呼べるのです。 いずれにしても障害を無くす仕組みです。 トピック記事【いろいろなユニバーサルデザイン製品】 様々なユニバーサルデザイン製品があります。ぜひ下のURLにアクセスして、見聞を広げてみてください。 @日本点字図書館 http://yougu.nittento.or.jp/ A共用品推進機構 http://www.kyoyohin.org/ja/index.php (ここに上の@AそれぞれのQRコードも掲載されている) トピック記事【点字ブロックとは】 点字ブロックは、正式名称を「視覚障害者誘導用ブロック」といい、視覚障害者のためのバリアフリーとしてつくられました。視覚障害者が足裏の触感覚で認識できるよう、突起を表面につけたもので、視覚障害者を安全に誘導するために地面や床面に敷設されているブロック(プレート)のことです。 点字ブロックは、視覚障害者の安全かつ快適な移動を支援するための設備として、1965年(昭和 40年)に日本で考案され、世界に広がっています。 様々な場所に点字ブロックが敷設され普及してきた一方で、車いす利用者からは、点字ブロックを通る時の衝撃が強いのでもっと出っ張りを少なくしてほしいなどいろいろな意見が出されてきたため、現在ではユニバーサルデザインの観点から、凹凸の形状や出っ張りの高さなどを調整したものが実用化されるなど新たな進展を迎えています。 p20,21 障害をなくす配慮のしくみBだれもができる配慮 社会にある障害はあなたの配慮でなくせます。 配慮を必要としている人を見かけたら「障害」をなくすために、声をかけてください。 見えない人たちへのだれもができる配慮の例 (声かけ、誘導のイラスト) 見えにくい人たちへのだれもができる配慮の例 見えにくい人の見え方は人によってみんな違います。歩くのは OKだけど文字を読むのは NGとか、少し暗めのところはOKだけど明るいところは NGとか、いろいろです。 見えにくいという体の障害は周囲には理解されにくいものです。何か聞かれても変に思わず、困っているのかなと思ったら「何かお手伝いしましょうか」と声かけの配慮をお願いします。 解説 (児童・生徒用冊子20、21頁 ) バリアフリーやユニバーサルデザインの仕組みが増えてきたとはいえ、特に外出時には視覚以外から十分な情報を得ることはなかなか困難なことは確かです。そのようなときに周囲の見える人が見た情報を声や誘導という形で伝えてくれることが障害を激減させるのです。周囲の人が非協力的であるならば障害は増していきます。 見えない人ばかりでなく、見えにくい人も援助を求める場面があることを紹介しています。直子の弱視時代のところでも紹介しましたが、「見えにくい」という体の障害は、「見えない」よりもずっと理解されにくい現状があります。直子が使っていた単眼鏡やフラッシュライトを使うときに周囲から「変な人?」という視線を受けることもまれではありません。 見えにくい人の見え方は、小さい文字が見えないという単純なものではありません。十人十色で、それぞれ必要な配慮は違います。まずはパッと見て「変」で排除しないでください。もしかして見えにくいのかな?という気持ちで困っている様子があったら声をかけてみてください。 人の心が異質であるがゆえに他者の排除の心となり障害は作り出され、異質を当り前として、配慮の心で声かけ・応答があるときに、障害を大きく無くすことを知るのがねらいです。 笑顔でこちらに手を振っている直子さんのイラスト 右側に太字でタイトル タイトル:知っておいてください 本文:○椅子に誘導するときには、もし背もたれがある椅子でしたら、杖を持っていない方の手をそっとつかんで背もたれを持たせてください。また座面の位置も手で確認させてください。 ○電車やバスの中で、空いている席があったら声で情報提供してください。また自分が座っていて降りるときに席が空いたことを知らせてください。席が空いていないときには特に席をゆずっていただく必要はありません (見えないだけで体は元気です)。 ○食事の時など、テーブルの上にある物の位置を説明するときにはアナログ時計の文字盤に位置を置き換えて説明してください。例えば右側にある物は、「3時の方向に○○があります。」 手前側にある物は、「6時の方向に△△があります。」と言ったようにです。 太字のタイトル:視覚障害がある人(特に全盲)と話をするときの配慮 本文:○うなずきや表情だけでは伝わりません。声に出して相手に伝えましょう。 ○あっち、こっちなどの指示語ではなく、なるべく具体的な言葉で伝えましょう。 ○また、湯飲みなどを黙って移動させてしまうこともダメです。「湯飲みを右側 30センチぐらいのところに移動しました」などとお話しください。   トピック記事【聞いてプレイ! サウンドテーブルテニス(卓球)】 障害なくスポーツが楽しめる事例を紹介します。 サウンドテーブルテニス(卓球)の球の中には鉛の小さい粒が入っていて転がると音が出る仕組みが備わっています。この球を転がしてネットの下を通過させて打ち合います。音を聞いて球を打ち合うルールですので見えなくても楽しめるスポーツです。 他にもいろいろなスポーツで楽しんでいます。 http://view-net.org/archives/1268  (ここにQRコードも掲載されている) p22,23 「障害」ってなんだろう・ 「障害」ってどこにあるんだろう社会に障害をなくす配慮のしくみや声かけの 配慮があることで、直子さんの生活から「障害」がなくなることがわかってもらえたと思います。では「障害」は見えない・見えにくい人など体に障害のある人だけに作りだされるもので、皆さんの周りにはないのでしょうか? (コンビニの出口で立ち止まっておしゃべりをする女子高生のイラスト) お店を出入りする人が通りにくいという「障害」を作りだしています。自分たちの楽しいおしゃべりだけを考えるのではなく、周りの人に配慮して出入り口からはなれたところでおしゃべりをすれば「障害」はなくなります。 子ども用のいすをレストランが配慮し用意しています。これも社会にある障害をなくす配慮のひとつです。 すみません、ABC高校はこっちですか。 (聞かれた人は無視 心の中で「めんどくさいよ」) 「障害」は体に障害があってもなくても、だれにでも作りだされるだけでなく、利用しやすい道具や配慮によりなくせることもわかってもらえたと思います。 解説 (児童・生徒用冊子22、23頁 ) 目が見えているならば、困ることや不便なこと(障害)はないのかと疑問を投げつけながら、自分には楽だ・楽しいといった行動ははたして他者に対して障害(困ること・不便なこと)を作り出してはいないかと疑問を投げつけることで障害は誰にでも起こりうることを考えさせ、「障害」を身近な問題として考えさせることがねらいです。 誰もが子どもという体の特性に合わせた道具があったことに気づかせ、あるいは、周囲が非協力的か協力的かで困ること(障害)は作り出されたり無くなったりもするのだということに気づかせることで以下の結論に導いています。 このように考えていくと、自分に使いやすい道具があることや周囲の配慮があることで、困ること・不便なことつまり社会の障害が無くなるのは何も体の障害がある人に限ったことでなく自分自身の生活にとってもそれは日常的に密接なことであることが理解できます。 トピック記事【社会モデルの講座を受講した中学生の感想より】 ・今回の話を受け、今までと違う視点から考えられるようになりました。 他人との違いを認めることを恐れず、もっと広い視野を持てるようにしたいです。 ・人は障害を作ることも無くすこともできるという話に共感しました。みんなは集団の中で生きているから、なおさら一人の行動が周りに強く影響するのだろうと思います。 ・小学校の時にアイマスクで歩いたことがあって、とても怖くて何もできませんでした。こんな怖い世界がずっと続いているのに生きていてすごいと思っていましたが、今日それは違うことがわかりました。 トピック記事【盲導犬】 盲導犬利用者になるためには「犬が好きで自分で世話をすることができる」「白杖である程度の単独歩行ができる」などのいくつかの条件があり適性検査もあります。合格した後、順番が来たら、一定期間、原則訓練所に泊まり込んでの共同訓練に入り、一定以上の犬の使い方を体得できた人のみが犬と共に退所でき、盲導犬ユーザーになれます。 犬の世話はパートナーとなる見えない人が全て行います。餌やり、清潔保持、もちろん排泄物の処理もします。仕事中でない家にいるときには、盲導犬もペットの犬と同じで、なでてもらったり遊んでもらったりするのが大好きですので、そのようにします。盲導犬はこうして自分の世話を一生懸命にしてくれるパートナーが大好きです。なのでパートナーと一緒に出かけるのが大好きです。段差や曲がり角などを知らせたときにパートナーから褒められると、嬉しくなってもっと「一緒に歩いて自分が分かることを伝えたい」と思います。 見えない人は自分の盲導犬に行く方向や道路を横断するなどの命令をして歩きます。盲導犬が自分で行き先がわかったり信号の色がわかって意味を理解しているのではありません。 盲導犬は段差の前や曲がり角で止まるように訓練されてますので、飼い主は盲導犬がどういう状況の所に来たから止まったのかを判断し、頭の中にある地図に従い、盲導犬に曲がるとか進むとかの指示をして歩きます。階段やドアを探させることもあります。仕事中にはハーネスをつけます。ハーネスをつけている犬をかまわないでください。仕事中に気が散るようなことがあると、パートナーにきちんと段差などを伝えることができなくなり危険だからです。 p24,25 なにが「障害」になって、どうしたらなくなるの ? (1)どんな「障害」があるのか (2)なぜ「障害」が作りだされてしまったのか (3)その「障害」をなくすにはどうすればよいか イラストを見て友達といっしょに考えてみてください。 A,B,C,D 4つのシーンを提示。 解説(児童・生徒用冊子24、25頁 ) ぜひグループ討議をする時間をとってください。 体の障害がある人だけにあると思っていた「障害」が自分たちの生活シーンにもある。 ○社会にある障害に気づき ○社会がその障害を無くすにはどうしたらいいのか 4つのシーンを通じて、繰り返し考えてみてください。正解はありません。 社会が作り出している障害に気づき、どうすれば障害を無くせるのか、自分ができる具体的な行動を考えることで、自分と無関係だったと思われることが「障害」と密接にかかわってくるという、児童・生徒の意識の変革をもたらすことがねらいです。 トピック記事【社会モデルの講座を受講した高校生の感想より】 ・障害は自分たちの行動でできたりできなかったりするので、障害者という言葉は少しおかしな気がしました。そのような言葉が生まれないよう、自分も努力していきたいと思います。いや、当り前のようになりたいと思います。 ・私たちが普段何気なく過ごしていることも、たくさんの配慮があって成り立っているのだと知りました。私たちも障害を作ることも無くすこともできます。それなら私は障害を無くす人になりたいので、身の回りで気遣えることには積極的に関わっていきたいです。 ・相手が障害を持っているからではなく、誰に対しても配慮ができる人になりたいと思った。 ・身体の不自由な人のために作られたものが、自分たちの生活の中でも役立っていてすごいと思った。自分の将来はまだ具体的に決まっていないが、将来そのような物を作りたいと思った。 トピック記事【社会モデルの研修を受けた教員の感想より】 ・人権教育、社会福祉をどのように伝えていくのか考えさせて頂く良い機会となりました。障害がある人をかわいそう、手伝って「あげる」と上から目線でなく、単純に困っている人を助ける、個性として受け止めることのできる子どもたちを育てていかなければならないと感じました。 ・相手を思いやって配慮しながら生活することは何も特別なことではなく、私たちの生活の中にも常にあることに気づくことができました。どこにいても誰もいてもみんなが障害を感じることなく過ごすことができる空間、それを作っていこうと行動できる子どもを育てていきたいです。 ・障害というのは見えない聞こえないということでなく、誰もが使えるようになっていないことが障害になることがわかりました。違いを違いとして認め合いどのように皆が過ごせれば皆が心地よく生きていくことができるのかを考えていくようにしたいと思いました。 ・社会の枠組みを変えることで障害への見方は変わると思います。障害のある人もない人も障害を感じることのない世の中を目指したいです。そのために私たちは障害を感じさせないように相手のことを考えて配慮できることを子どもたちに伝えることが大切だと思いました。 p26,27 まとめメッセージ (カフェにいろいろな人が集まって楽しそうにしている風景) 仲間はずれはだれだってイヤだよね。 やっぱりみんな個性がちがうからいいんだよな。 一人ひとりの意識で変わるんだよな。 そうか、いろいろな人たちへの配慮なんだよな。 おれ、いきなりはできないし、まずは身近な人からだな。 ステキな人になってね。 いろいろなちがいのある人がいて、いっしょに楽しく暮らせる社会をみんなでつくっていきませんか! 解説(児童・生徒用冊子26、27頁 ) この冊子を通じて皆さんに気づいて頂きたいポイントのまとめです。 このように考えてくると「社会モデル」で障害を理解することは、あらゆる差別に普遍的に応用できることにも気づくのではないでしょうか。 大きく文化習慣の違う外国人、異民族の方々と共生する社会について考えるときにも、まさに「社会モデル」そのものではないでしょうか。 誰もが平等に社会参加できる見方を基礎にして、どうしたらみなが参加できるようになるのか、快適に暮らせるようになるのかを皆が考え気づくことで、誰もが共生できるようになるのではないでしょうか。 逆に今度はもっと小さな最小単位の社会に目を向けてみてください。 クラスの中の友達に目を向けても、一人ひとりの得意なことは違います。誰一人として同じ人はいないのです。このような違う人たちとクラスに集まったのですから、他者との違いを認め合い配慮し合えれば、差別やいじめは無くしていけるのかもしれません。 児童・生徒の皆さんには「社会にある障害をなくす」という大きなテーマでは、なかなか取り組みにくいですから、まずは家族や学級といった身近な社会に目を向けるところからはじめ、その小さな社会で「相手との違いを認め合い、配慮し合うこと」をしてみるとよいと思います。 皆がお互いに快適に暮らせる居心地の良い社会を作っていくこと、その時に特定の人だけが頑張っていたり我慢していたりということがないようにすることにも気づかせることも必要です。 その構成員ひとりひとりが自分のことだけではなく、他の人のことを思いやり、少しずつ頑張ったり我慢することで共生社会は構築されるものだと考えています。 相手の「できないこと」を知って「この人は○○ができない」とするのではなく、「どうしたら参加できるようになるか」「どうしたらともに楽しめるのか」をみんなで考える視点が大切になります。 身近な社会で共生の考え方の中で経験を積んできた人ならば、地域社会や市町村・都道府県・国といった大きな社会においても、その応用で共生社会を構築していける人になれると確信していますし、私たちの願いでもあります。 トピック記事【障害者権利条約と障害者差別解消法】 障害者権利条約は、あらゆる障害(身体障害、知的障害及び精神障害等)のある人の尊厳と権利を保障するための人権条約です。この条約は21世紀では初の国際人権法に基づく人権条約であり、2006年 12月 13日に第61回国連総会において採択されました。日本政府の署名は、2007年 9月28日に行っており、2014年 1月 20日に批准しました。 条約が画期的なのは、その基本的な考え方にあります。障害の原因は個人ではなく社会の側にあると、従来の考え方を転換したのです。 その理念は 2011年(平成 23年)に施行された改正障害者基本法に明記され、成立から3年を経て(2016年平成 28年 4月)に施行となった障害者差別解消法などにも盛り込まれています。 裏表紙 いろいろな人とともに暮らせるステキな心をもった人になってね! 裏表紙の本文:おわりに この冊子は、従来よく行われてきた障害者の機能に着目する障害啓発の講座とは大きく異なっていることがお判りいただけたかと思います。 従来の障害啓発の講座の最大の問題点は、機能障害に焦点を当てた講座なので、様々な不便や差別の原因が機能障害に由来することに直結するため、「障害はない方がよい」「障害者は不幸である」そして、「障害者はいない方がよい」という生存そのものを否定しかねない危うさをも持っていることです。つまり、障害者の人権そのものを否定しかねない講座になってしまう可能性があるのです。 社会モデルはものの捉え方を変えます。つまり、障害の視点を社会に当てることで、ものの捉え方を変える極めて重要な視点を獲得できるようになるのです。 当法人では、「障害」を社会モデルの視点で捉えることを通して、個性の違いを認め合い、互いの人格を尊重し、多くの人たちがいろいろな人と共生できる素敵な人になってほしいとの願いからこの冊子を作りました。不十分なところも多くあると思います。引き続き実践を重ねる中でさらに充実した福祉講座にしていきたいと思います。忌憚のないご意見を賜れば幸いです。 この冊子は「よこはまふれあい助成金」 「NHK歳末たすけあい配分金」の支援を受けて作成いたしました。 制作 (特非)神奈川県視覚障害者情報雇用福祉ネットワーク(略称View−Net神奈川)  ホームページ http://www.view-net.org 制作協力 (株)創造集団440Hz イラスト作成 山本菜々子 ※この冊子の文章・イラストの著作権は(特非)神奈川県視覚障害者情報雇用福祉ネットワークに帰属します。この冊子の全部を複製することは可能ですが、個別のイラストを無断で使用することは固く禁じます。